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2009年01月26日

「カムイ伝講義」を読んだ

kamui.jpg「カムイ伝講義」田中優子 著

在日韓国・朝鮮人の歴史、韓国の現代史、アイヌの歴史、そして、部落問題については、ずっと気にかけているテーマ。そして、人の中にある宗教・信仰の問題なども私のアンテナは強力に反応する。

そんな中、「カムイ伝講義」という本があることを、著者の田中優子さんがラジオでしゃべっているのを聞いて知った。そもそも「カムイ伝」すら、名前はしっていてもどんな劇画かは知らなかったので、その話を聞いているととても読みたくなった。

江戸研究の田中さんは、テレビでも和装のコメンテイターとしてよくお見かけする。
法政大学で、「カムイ伝」を題材にいろんな江戸の下層の人々の観点からテーマを抽出し分析し、補完した講義をされていて、それを編集したものがこの本だった。
WEBでも読むことができる。 小学館のサイトhttp://kamui.shogakukan.co.jp/kamui/2005/09/post_2.html

江戸時代の身分制度がいかなるものであったかというのは、最近ではいろんな本もでていて、時代劇と実際がずいぶん違うものであることを感じはしていたが、カムイ伝を通した分析では、農民の生きる力、技術、知識、権力に抗するパワーなど圧倒的で、武士は刀をもって人を切ったりすることはまれであったり、下層身分の人達が実は重要な働きで江戸時代の合理的な経済システムを支えていたことなどがあきらかにされ驚く。武士の姿は藤沢周平さんの小説にでてくるような下級武士の苦しい生活が多くの武士の生活であることなどもようやく、知るようになった。

だから、現代日本人が「サムライ」といきまくのは、何だかこっけいだ。

江戸時代の職業について詳しく書かれているところも、とても面白かった。
知らなかった、山丈は、絵本にでてくる「山男」のことだったり、いろんな職能をもった人物が紹介されている。医者になった人物は、もともと処刑の仕事にいた人間だったり、動物をさばくのが上手だったりで勉強のすえ、外科手術をし、人を助け、一揆を率いていくなどダイナミックだ。

是非、「カムイ伝」「カムイ外伝」を読んでみよう。

現代では、自分の生活は、他人がすべてしてくれていた上で、お金と交換に手に入れているにすぎない。買ったものが作られて、あるいは、さばかれて、自分の口にはいったり、生活を彩ってくれるその結果の部分だけを享受している。しかも、それは、今では多くは日本の外からやってくる。
そんな生活の危うさ、生の弱々しさを江戸の時代のダイナミックな生き方を知ることで、考えるヒントをもらえる。グローバル経済のままでよいのか?すでに破綻した世界を一から見直すときに、それぞれが自立して生きる力を持つということが重要に思えてきた。

投稿者 pianocraft : 2009年01月26日 23:29

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コメント

こんばんは。
この本、昨年11月頃から読みかけ中断していました。
読書自体すっかり遠のいていたからです。エントリを読ませていただいて、とても興味深い内容だったことが甦ってきました。さっそく続きを読み始めることにします。
『カムイ伝』『カムイ外伝』は子どもの頃読みましたが、2年ほど前に全集も買いました。
『カムイ伝講義』を読んでいるときも、平行して『カムイ伝』も読んでいました。流し読みできるような漫画ではありませんが引き込まれるおもしろさがありますし、いろいろ考えさせられます。

投稿者 りん : 2009年01月28日 00:02

りんさん、さすがですね。
全集をお持ちとは・・。最近、猿回しの村崎さんが、ご結婚を期に出自について本を出しておられますし、私は関西在住ですから部落差別は子供の頃から教育の中でも、身近な問題として知っていましたが、地域によっては、まったく知らない人たちもいるのですね。

この本は、部落差別だけでなく、江戸時代を見ることで、人の生業のルーツを知り、今の問題を見据えるというのが興味深い視点でした。

投稿者 pianocraft : 2009年01月29日 22:20

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